木材の細胞壁は、セルロース(cellulose)・ヘミセルロース(hemicellulose)・リグニン(lignin)の3つの主要成分で構成される再生可能な高分子生体材料であり、細胞壁の重量の約95%を占めています。親水性のセルロースとヘミセルロースは、炭水化物(単糖)を単位として構成されるポリマー化合物ですが、疎水性のリグニンは、芳香環を単位とするフェニルプロパンで構成されます(表1)。これら3つの化学的特性は、木材が人間の文明において重要な役割持つこととなった主な原因と言えます。
木材素材の使用に関して、読者はまず家や家具を作るために使用される木材、または木材から分離した繊維使用し、紙を製造することなどを連想するでしょう。しかし、ほとんどの人は、私たちが身に着けている衣服・歯磨き用の歯磨き粉・飲み物に添加されている増粘剤・錠剤中のビタミンや賦形剤・火薬などがすべて再生可能な木材素材で作られているとは、考えたこともないでしょう。
セルロースのヒドロキシル基は同時に反応基を提供し、ここからさまざまなセルロース誘導体の作成が可能となっています。繊維材料を濃硝酸と濃硫酸の混合液に浸して作られたニトロセルロース(別名ニトロセルロースおよびコロジオン、古代には爆発物として使用されていた)、リサイクルされたレーヨン繊維などもすべてセルロース誘導体から製造された製品です。現在、セルロース誘導体は食品・医薬・化学工業・建設・環境保護・石油化学の分野で広く使用されており、その製品形態にはシルク・メンブレン・ハイドロゲル・エアロゲル・バイオプラスチック・高性能材料などがあります。資源の観点から見ると、セルロースは無尽蔵な再生可能資源であり、化石原料を材料とする合成繊維に比べ、セルロース材料の水酸基は反応性がより優れているため、反応の設計は期待通りの性能を出すことが可能です。天然繊維は加工技術面において比較的シンプルでコストも安価であるほか、汚染も化石原料ほどではありません。
環境負荷を低減する優れた原料
これらの天然繊維は上記のメリットのほか、生分解性にも優れた環境にやさしい素材であり、近年、ナノセルロースの発展はセルロースの技術開発の重点となっています。ナノセルロースは比表面積が大きく、引張強度が高いという特徴を持ちながら、未だ生体内での拒絶反応や炎症作用が観察されていないなど、生体適合性(biocompatibility)に優れています。また、医療および産業の分野でも幅広い関心を呼んでおり、日常的・外科的・実験的な消耗品である化粧品の原材料・手術・組織工学・ステント、さらには生物医学的材料・生物学的担体・バイオセンサー・磁性薬物担体・無機材料の生物学的テンプレートなど精密機器において幅広い応用が可能であり、これらはすべて、将来のセルロース技術の重要な分野となる見込みです。
持続可能な森林経営に関する多くの知識
森林から採取した再生可能な木質繊維と人間との間の関係は、科学技術の発展とともにより緊密になりました。森林は重要な天然資源であり、生態系の品質を保つためにも大切な存在ですが、今日、化石原料不足に直面したことにより、再生可能なグリーン資源のより完全で効果的な使用が必要となっていることから、人類による森林資源の利用において、将来発生して直面する可能性のある環境汚染やエネルギー不足という逆境について再検討する必要があります。台湾は国土の60%近くが森林に覆われており、本来の自然林や環境保護林を撤去すれば、40万ヘクタール近くの経済林が利用できると考えられています。より多くの木を植え、再生不可能なエネルギーと材料(すなわち、化石燃料・鉱物・合成高分子)の使用を減らし、再生可能な木材を使用することこそが森林資源の利用における正しい態度であり、これらを実行することで、地下から更に大量の「炭素」が生物圏に放出することを回避することが可能です。責任ある将来を見据えた森林経営とは、森林資源の保護・育成・開発・利用および環境保護やその他の多機能的恩恵をもたらす管理および生産活動であり、できるだけ再生可能な天然繊維を使用することで人間の生活の質を高めることができるほか、環境保護という目的を達成することも可能となります。
ソース:
https://www.scimonth.com.tw/tw/article/show.aspx?num=537&root=5&page=4